ぼそぼそ

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ハリー・ポッターと人間の意志

 ハリー・ポッターの作品群は意志が持ちうる力を上手く見せることに成功している. 

 7作目の最後のシーンで父は息子に語りかける: 

"Albus Severus Potter... you were named for two Headmasters of Hogwarts. One of them was a Slytherin, and he was probably the bravest man I've ever known".
- Harry Potter and the Deathly Hollows: Part 2

 アルバス・セブルスはスリザリンに振り分けられることへの不安を父に打ち明け, ハリーはこのようなことを息子に伝える. 彼は後にスリザリンに振り分けられることとなる. 

 場所に対する振り分けというのは一定程度まではその場所に対する適性, さらに言えばその場所に対する印象や偏見によってなされるものである("Not Slytherin, not Slytherin!" - Harry Potter and the Sorcerer's Stone)*1. そして, その振り分けは客体に働きかけてその印象と偏見を強化する. 人は自分があてがわれた価値観に対して様々に反応する. ネビル・ロングボトムは組み分け帽子からグリフィンドールの剣を引き抜いて分霊箱を破壊した. ギルデロイ・ロックハートは自らが「中の上」でしかないことに傷つき, 名声を追い求める旅に出た. 

 しかし, この世界は「魔法の世界」なのである. この世界では未来が現在に先行しうる. ネビルと剣のエピソードは, ネビルが有していた純血の血筋と彼に秘められた才覚という文脈で回収されうる.  この世界は魔法の世界なのだから, 組分けが未来に従う形でなされる, という考え方すら一定の妥当性を持つように思えるかもしれない. 

 これもまた, 一つの狡い見せ方の例だと思う.

 

 

*1:ハリーの振り分けについて,  ハリーはそのセリフによってスリザリンとレイブンクローへの不適性を示したという考察がある:

https://www.reddit.com/r/harrypotter/comments/21zw79/by_saying_not_slytherin_harry_wasnt_just_picking/