品物を見て, 選んで, 買って, 身につける. 一連の選択の中で, それを作った人のトレースを自分に植え付ける.
記憶の定着に問題を抱えているという話をいろいろな所でしてきたし, ここにも書いたかもしれない. 定着を促すために, 触れる回数を増やすという考え方がある. 身につけることはそばに置くことであり, 意識から近いところに置くことである. 身につけたものを認識するたび, そのものの背景にある文脈が知覚される. 繰り返し触れるうち, 文脈を他人に向かって誦じられるようになる.
ものを所有すると, そのものを作った人の知覚や頭脳の不完全なトレースを手に入れることになる. 所有したものを身につけているうちに, そのフィルムは自分の側へと近づいてくる. やがて, 外から見れば, 重なり合うように見え, 内から見れば, 作った人のイメージが常にそこにあるように見える.
ものを纏い, 自分を拡張する. 第一に言及されるのは身体の拡張で, それはより馴染み深いものであり続けるのだけど, その奥には, またはそれとは別に, 自分が纏うものは自分の精神を拡張する.